まとめ
PBXのクラウド化やチャネルの多様化の影響で需要が増大しているコールセンター業界。特に2020年以降は新型コロナウイルスの影響に伴い、対面での接触を避けるために新しく電話窓口を開設した……という企業も多いでしょう。
しかし社会全体の考え方が大きく変わった一方、コールセンター業界の大部分はいまだに既存の労働環境を継続しています。
本記事では、在宅コールセンター立ち上げのメリットや、導入時の課題と必要な手順などを解説していきます。
コールセンターを在宅化するメリットは、大きく「リスク対策」と「コスト削減」の2つが挙げられます。
近年ではコロナウイルス対策による在宅勤務化のほかにも、地震や台風といった自然災害によってオフィスに出社できなくなるケースが増えてきました。そのせいで業務を遂行できず、売上減などの損害を受けた企業も多かったことでしょう。中には事業存続の危機に瀕した……というところもあったのではないでしょうか。
在宅でも通常業務を行える環境が構築できれば、オフィスに出社できない状況下でも必要な業務を円滑に進められ、事業資産の損害を最小限に留めることができます。
また在宅化という働き方改革が促進されることで、クラスター感染を引き起こしやすい環境で対応にあたるオペレーターや事業者全体の安全確保にもつながります。
在宅コールセンターの導入には環境整備のための初期費用がかかるのではないか? と懸念を抱く方もいるでしょう。しかし企業にとってはさまざまなコストを削減できるため、結果的にメリットとなる部分もあります。
削減できるコストとして挙げられるのは、主に以下の4項目です。
在宅コールセンターが実現すると、オフィス規模の縮小やオフィスを持たないスタイルへ変える選択肢も生まれます。社員の家庭環境を考慮して、「サテライトオフィスの設置」「コワーキングスペースの利用」を組み合わせた快適な労働環境の提供も可能です。
このように職場環境を転換することで、地代家賃を削減できます。
オフィスに必要な経費は、地代家賃以外では主に「光熱費」「備品費」「消耗品費」「印刷代」などが挙げられます。在宅ワークが定着することで、こういった細かな経費も削減できるでしょう。
在宅ワークが定着すれば、オフィスへ出社することがなくなるため、通勤手当を支給する必要もなくなります。また社員がサテライトオフィスを利用する場合でも、自宅付近であれば交通費を大きく削減できます。
在宅ワークが可能になると、従来なら家庭環境や地理的な事情で採用できなかった層の人材も確保できるようになります。採用の幅が広がることで、より優秀なオペレーターを獲得できるようになるでしょう。
また家庭の事情で退職せざるを得ない……といった人材を減らすことにもつながるため、採用に関わる費用を削減することができます。
在宅コールセンターを導入する目的は、その企業が抱えている課題によって異なります。
【例】
まずは自社の課題を洗い出し、「在宅化したあとに実現させたいこと」を計画段階で明確にしておくことが大切です。
導入の目的を確認できたら、次は具体的な導入手順を検討していきましょう。環境構築を完了させる時期についても具体的に定め、逆算しながら必要な手順を設定します。
主に以下1~6のような例が考えられますので、参考にしてください。
在宅で行える業務と在宅では行えない業務の作業内容をリストアップすることで、必要な業務分担や勤務体制づくりが見えてきます。
たとえば電話対応からテキスト対応への移行や、チャットボットの導入は、在宅化へ向けて取りかかりやすい作業です。また一般的には在宅に不向きな書類ベースの業務も、オンライン上で処理できる環境へ移行するとよいでしょう。
現状では在宅化が難しい業務内容であっても、やり方を変更したり新たな機能を取り入れたりすることで解決できる可能性があります。
在宅化を進めるにあたって、企業およびオペレーターの自宅の環境整備についての検討は必須です。
在宅時でもオペレーターと円滑なコミュニケーションがとれるよう、組織の管理・運営方法を見直し、オンライン上にスムーズな導線を構築する必要があります。
特に考えておかなければならないものとしては、以下の項目が挙げられるでしょう。
業務で必要なやり取りを支援する便利ツールはたくさんあります。自社に合うツール・サービスをピックアップし、試験的な導入を経て段階的に環境整備を行いましょう。
コールセンター業務は音声通話に適した環境が必要です。各オペレーターの家庭環境をヒアリングし、環境整備に必要な項目を把握するところから取りかかりましょう。
また必要に応じて、都市部と郊外の間に小規模のサテライトオフィスを点在させる検討をするのもよいでしょう。これによりに「静かな個室」や「安定したインターネット環境」が自宅にない社員でも、勤務場所を選択して業務にあたることができます。
各オペレーターが在宅勤務でもオフィス勤務時と同じクオリティで実力を発揮できるよう、サポート体制を整えることが重要です。
活用できる機能としては、以下のようなものが挙げられます。
アクティブ状況確認 | 対応件数と対応状況、待ち呼件数の確認 |
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データ分析 | 問合せの待ち時間・通話時間を統計し、ダッシュボードから確認 |
音声モニタリング | オペレーターごとに対応内容をリアルタイムで確認。クロストークチェックなど |
オンライン上で円滑な管理・運営ができるよう、「カスタマイズ性があるか?」「リアルタイムの状況がわかりやすいか?」という点を含めて使いやすい機能を検討しましょう。
次は「2.環境整備について検討」の部分でヒアリングした結果を参考に、より詳細を吟味していきます。オペレーターが自宅から業務を行う場合に必要となる、以下の部分について具体的に整備を進めていきましょう。
1~4が完了したら、実際に導入するシステムを具体化して選定します。利用する機能は試験運用後に変更となる場合もあるため、複数の候補を挙げておくとよいでしょう。
また導入の進捗状況を確認し、完了までの期間を見直すなど、計画をより具体化することも大切です。一度にすべての導入を行おうとせず、優先順位を決めて段階的に進めることがポイントとなります。
5で選定したシステムを導入し、実際に運用してみましょう。開発が必要なものは進捗を確認しながら、導入に向けて作業を進めます。
なお導入後、実際に運用してみないと判明しないような課題に直面する場合もあります。随時修正が必要です。
具体的な金額はコールセンターの規模やオペレーターの人数によって異なりますが、クラウド型コールセンターシステムの場合、基本的に初期費用と月間利用料のみで利用できます。導入に際して工事費や開発費がかかるオンプレミス型と比べると、導入コストはかなり抑えられるでしょう。
ただし在宅化には環境整備のための費用も必要になってきます。業務ツールを新しく導入する場合の利用料や、サテライトオフィスを設置する場合にはその設置費など……。どこにどのくらい費用が掛かるのか、事前にしっかり洗い出しておけるとよいですね。
そう安くはない費用がかかるからこそ、導入時には「どのようにして費用対効果・投資対効果を上げていくのか?」という目標値を初期段階から明確にしておきましょう。
インターネットを介する通信には、常にセキュリティ事故のリスクが伴います。特にコールセンターは会社の機密情報や顧客情報を扱うことから、在宅化するうえで「情報セキュリティ対策」が最大のハードルになっている……という企業も多いのではないでしょうか。
在宅コールセンターを導入・運用する際は、オフィス同様のセキュリティ対策が求められます。どのような点について注意する必要があるのか、具体的に見てみましょう。
外出先ではもちろん、たとえ自宅であっても、勤務時には家族を含めた第三者への情報漏洩に注意を払う必要があります。
業務内容が漏れ聞こえないよう個室を用意する、離席時にはパソコンにロックをかけるなど、内部情報を守るための対策が必要です。また外出先での勤務は極力控えた方がよいですが、やむを得ない場合には覗き見防止フィルターなどを使って対策しましょう。
また在宅勤務を行う上で、社内サーバーへアクセスする必要が生じることもあるでしょう。ログイン時に必要なID・パスワードの管理には、常に細心の注意が必要です。
支給しているPCやUSBメモリ、HDDなどの物理的な紛失に注意が必要です。自宅内での紛失に注意するのはもちろん、移動中やサテライトオフィスを利用する際など、外出先ではより気を引き締めましょう。
なお紛失だけでなく、盗難の被害にあわないよう対策する必要があります。具体的な対策としては、以下の方法がオススメです。
オフィス外でネットワークへ接続する際は、脆弱なネットワークへ接続しないよう注意が必要です。また業務に使用する端末を家庭内ネットワークへ接続する場合は、事前にセキュリティ上の不備がないか確認しましょう。
会社からモバイルWi-Fiを支給するなど、使用するネットワークに制限をかけて対策する方法もあります。
個人の端末を社用として使用する場合は、セキュリティ対策をしっかり行った上で利用します。個人のPCローカルにデータをコピーできないようにするなど、具体的な対策が有効です。
セキュリティ対策には、端末を常に最新の状態へ保つことが重要です。しかし在宅ワークの懸念として、各社員が利用する端末のセキュリティ統制をしにくくなる問題があります。漏れなくセキュリティアップデートを実行してもらえるよう、周知する必要があるでしょう。
マルウェアとは、不正に有害な動作をさせる意図で作られた、悪意あるソフトウェアや悪質なコードの総称です。
感染防止のため、管理者側は情報へのアクセス制限を導入するなど対策しましょう。決して業務に無関係なWebサイトの閲覧や、不必要なソフトウェアのインストールを行わないよう、社員へ徹底して周知する必要があります。
在宅ワークでは社員同士の目など監視がないため、内部不正のリスクが高くなると言われています。社員へしっかりと情報セキュリティ教育を行った上で、在宅ワーク移行を進めることが防止策のひとつです。
以下3つのポイントを押さえれば、オフィス内でのマネジメントと同じようにオペレーターの管理やサポートを行うことができます。
大切なのは管理者が導入するシステムの機能をしっかり活用し、在宅化に対応したマネジメントへつなげることです。
働き方の見直しを求められるのは管理者だけではありません。オペレーターも同じです。
在宅勤務はオフィスとは異なり、管理の目が届きにくい環境下での業務になります。だからこそ自立し、自己管理をしながら成果を出す働き方が求められます。
特にコールセンター業務は「対応件数・時間」「顧客満足度」などによって、労働状況や成果を可視化しやすい特徴があります。在宅化をきっかけに成果を基準とした評価制度を導入するなど、各オペレーターの意識向上を図れる仕組みを作れるとよいですね。
在宅勤務時の人材運営には難しい点もあります。しかし運営管理者・オペレーター双方のスキルアップにつながる機会となり、企業にとっても大きなメリットになるでしょう。
PBXは構内交換機(Private Branch Exchanger)のことで、電話交換機とも呼ばれています。通信費用がかかる限られた電話回線に対して、多くの電話機を接続するために誕生した機能です。
これまでコールセンターに限らず、多くの企業の通話システムはオンプレミスPBXが主流でした。しかし昨今は、クラウドPBXへ移行する企業が増えています。
クラウドPBXは、従来ならオフィス内に設置する必要がある専用機器をクラウド化して、インターネット経由でPBXの機能を利用するタイプのもの。インターネット接続があれば場所にとらわれない通話環境を構築できるほか、クラウドならではの便利機能を利用できる特徴があり、コールセンターの在宅化にも役立つとされています。
しかし一口にクラウドPBXと言っても、提供されるサービスはベンダーによってさまざまです。まずは現状のコールセンターシステムがどのように構成されているのかを細かく分析し、クラウド上では使用できない機能の有無などを確認しましょう。そのうえで自社のコールセンターシステムに合うクラウドPBXベンダーを選び、在宅化に向け動き出すことが重要です。
※クラウドPBXについて詳しく知りたい方は、「クラウドPBXとは?導入時のメリット・デメリット、オンプレミスPBXとの違いを解説」をご参照ください。
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そのほか、Google が提供するコンタクトセンターに特化したAI機能(CCAI)を、完全なクラウド環境で1席から利用できる点も魅力として挙げられます。
まとめ
在宅コールセンターの立ち上げには、さまざまな課題が挙げられます。しかし導入は企業にとって「BCPなどのリスク対策」「コストの削減」といったメリットになるでしょう。これらのメリットを最大限に引き出すために、在宅化の目的を明確にすること、必要な手順を検討し、計画に沿って導入を進めることがとても重要なのです。
また安全に在宅時の業務を遂行するためにも、情報セキュリティ対策は万全に整えましょう。このように大切なポイントを押さえてコールセンターを在宅化することで、社員の働き方や運営方法も含め、企業全体を改革するよい機会となるのではないでしょうか。